「一人が100点でも命は救えない」不器用だった僕が、人命救助のプロになれた理由。

※記事内容は2025年12月時点のものです

「消防士=屈強なヒーロー」だと思っていませんか?

鮮やかなオレンジの救助服は、選ばれし精鋭「レスキュー隊(救助隊)」の証。

福山地区消防組合で、そのオレンジを身にまとう卒業生・後藤聖巨さん。

頼れる「プロフェッショナル」そのもの!ですが、取材で出た言葉は意外なものでした。

「僕は昔から不器用で、物覚えも悪くて……正直、自信なんてなかったんです」

そんな後藤さんがなぜ、最前線で命を救うプロになれたのか。

そこには、「一人で完璧を目指さない」という、新しい強さのカタチがありました。

■ 始まりは「ガタイがいいから」。でも根っこには「人を助けたい」があった。

―― 後藤さんが消防士を目指したきっかけを教えてください。

実は、「小さい頃からの憧れ!」というわけじゃなかったんです。

高校生の時、進路に迷っていたら先生に言われたんですよ。「お前、ガタイがいいし、向いてるかもな」って。きっかけはそんな単純なことでした(笑)。

でも、自分の中でしっくりくる部分もあったんです。

幼い頃に手術をした経験があって、ずっと「医療系で人を助けたい」という想いがありました。だから、「消防も、体を張って人を助ける仕事だ」と気づいた時、自分の中でスイッチが入った気がします。

―― 後藤さんの根底にある「人を助けたい」という優しさ(スキ)が、消防という仕事に繋がった瞬間だったんですね。

※「スキ進め」が合言葉の穴吹カレッジ福山校では「スキ=自分の中のポジティブな感情」と定義しています。

■ 「ここなら変われる」。熱意に惹かれたオープンキャンパス

―― 高校時代から一直線に?

いえ、実は高校現役の時の公務員試験は不合格でした。

筆記は通ったんですが、面接で落ちてしまって……。

―― 面接対策がおろそかになりがちな「現役高校生あるある」だったんですね。

まさにそうですね。当時は「なんとかなるだろう」と思っていて。 そんな時、穴吹のオープンキャンパスに参加したんですが、先生たちの熱意がすごくて、面接指導もとにかく手厚くて!それで入学を決めました。

入学してからは、先生がとことん練習に付き合ってくれました。自分一人では気づけない癖や、想いの伝え方を叩き込まれて。 いつしか、面接が得意になり、「筆記試験を通過して面接にたどり着きさえすれば、絶対に受かる!」と確信できるようになっていました。

■ 「昨日のことのように覚えている」。それは、人生で一番本気だった日々だから。

―― 穴吹での学校生活はどうでしたか?

とにかく「仲間」に救われた1年でしたね。 公務員試験の勉強って孤独に見えるじゃないですか。でも、アナブキでは違った。 通学の電車の中で、同じ消防官をめざす友人と毎日のように「クイズ大会」をしていました。単語アプリを見せ合ったり、地理や社会の問題を出し合ったりして。

―― すごい!かなり前のことなのに、昨日のことのように鮮明に覚えているんですね。

そうですね、自分でも驚くくらいよく覚えています(笑)。 多分、人生で一番「めちゃくちゃ本気」で取り組んだ期間だったからだと思います。 一人だと「今日はいいや」ってサボりたくなる日もある。でも、「あいつがいるから頑張ろう」と思えた。

あの時の仲間との思い出や繋がりは、過去のものじゃなくて、今も僕を支えてくれる大切な宝物です。

■ 「不器用な僕」を支えてくれた、大切な仲間。

―― 念願の消防士になり、さらに憧れの「救助隊」へ。順風満帆ですね!

それが……救助隊に入ってすぐに壁にぶつかりました。

救助隊って、扱う資機材の種類がものすごく多いんです。しかも、どんどん新しい機材が導入されるので、ベテランになっても勉強し続けないといけない。

僕は不器用で、なかなか操作手順が覚えられなくて、それに救助隊になるための研修や「水難課程」が過酷で、心が折れそうになったことも。

そんな時、支えてくれたのが同期のFくんでした。

彼は僕より先に救助隊になっていた先輩でもあり、穴吹時代からの仲間です。

僕が落ち込んでいると、「夜間訓練一緒にやろうよ」と付き合ってくれたんです。

―― 素敵な関係ですね。

そうですね。今は別の署にいますが、連絡を取り合って近況を報告したり、悩みがあれば相談したりしています。お互いにリスペクトし合える大切な存在です。

■ ヒーローは一人じゃない。全員で命を救う「優しさ」の現場論。

―― 後藤さんの「仕事の流儀」を教えてください。

「全員で100点を取る」ことです。

災害現場には正解がありません。隊長の判断がすべて正しいとは限らない。だからこそ、「隊長、こっちの方法がいいと思います!」と部下が意見を言える環境じゃないとダメなんです。

一人がスーパーヒーローで100点でも、チームがバラバラなら現場では命を救えないこともある。

だから、普段からの「仲の良さ」を大切にしています。それは馴れ合いじゃなくて、命を預け合うための信頼関係なんです。

互いを認めて支え合い、高め合う。それがプロの絆。

■ 目指すは「救助隊長」。意見が言えるチームを作りたい。

―― 後藤さんの今後の目標を教えてください。

「救助隊長」になり、災害現場で指揮を執ることです。

先頭に立って引っ張っていくリーダーというより、普段から隊員とのコミュニケーションを積極的に行って、みんなが気軽に意見を言い合えるような関係性を築きたいですね。

そうやって実践的な訓練を積み重ねて、災害対応力の高い部隊を作り、住民の皆さんの安心につなげていきたいです。

不器用な僕だからこそ、人の痛みや悩みがわかる。

それを武器に、これからもプロとして成長し続けたいと思います。

■ 未来の後輩たちへ

―― 最後に、進路に迷っている高校生へメッセージをお願いします。

公務員試験は大変難しいですし、心が挫けてしまうこともあると思います。

そんな時は、思いっきり気分転換をしてください。「1日勉強しなくてもいい日」があっても良いんです。

次の日から気持ちを切り替えて、また勉強すれば大丈夫。

「継続は力なり」の言葉に尽きます。

試験の最後の1分まで諦めずに頑張ってください。みなさんの合格を心から応援しています。現場で待っています!

編集後記

信頼し合う「温かさ」を感じた冬の朝

取材に訪れた福山地区消防組合 深安消防署。

そこで目にしたのは、張り詰めた緊張感……だけでなく、驚くほどの「温かさ」でした。

撮影中、通りがかる隊員さんたちが「おっ、カッコイイじゃん!」と後藤さんに笑顔で声をかけ、後藤さんも照れくさそうに応じる。階級や上下関係を超えた、「お互いを信頼し合っている空気」が伝わってきました。

実は、後藤さんのインタビュー中にちょうど話題にしていた、穴吹の同期のFさんが休暇中に通りがかって話が盛り上がるという偶然も!!(奇跡✨)。

この日頃からの「和やかさ」があるからこそ、いざという過酷な現場で、命を預け合う連携ができるのだと確信しました。

▼ 斜面救助訓練の様子を公開!

ご協力いただきました深安署の皆様、本当にありがとうございました。

【撮影協力】
福山地区消防組合 深安消防署

ホームページ / 公式Facebook

名前勤務先出身校
後藤聖巨さん福山市(福山地区消防組合)福山明王台高校

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